
舌のヒリヒリ感、ピリピリする違和感、焼けるような痛み。鏡で見ても異常がなく、病院でも「原因がわからない」と言われ続け、不安を抱えて来院される方が非常に多くいらっしゃいます。
実際に当院では、「歯医者にも行き、医科歯科大学の口腔外科でも診てもらいました。薬ももらいましたが全く効かず…今は精神科にも通っています。でも舌の違和感が治らないんです。」
というご相談を頻繁にお受けします。

舌痛症は見た目に異常が出にくく、検査でもこれといった原因がつかめないことが多いため、「心因性」と処理されてしまうケースも少なくありません。
しかし、舌痛症は「心だけの問題」ではなく、身体全体のバランスが崩れて起きる疾患です。
自律神経の乱れ、ストレス、ホルモンの変動、胃腸の弱り、首肩や顎の筋緊張、ドライマウスなど、
複数の要因が絡み合って症状を引き起こしていることがほとんどです。
この記事では、舌痛症の原因を現代医学と東洋医学の両面からやさしく解説し、鍼灸がどのように症状にアプローチできるのかをまとめています。
長く続く舌の違和感でお悩みの方は、ぜひ参考にされてください。
現代医学でみる舌痛症の原因

舌痛症(Burning Mouth Syndrome:BMS)は、舌に明らかな傷や炎症がないにもかかわらず、ヒリヒリ・ピリピリ・焼けるような痛みや違和感が続く疾患です。
検査で異常が見つかりにくく、「気のせい」「ストレスの問題」と片づけられてしまうこともありますが、現代医学では神経の過敏化が中心にある痛みの病態と考えられています。
①神経の過敏化(ニューロパシックペイン)
舌や口腔を支配する三叉神経・舌咽神経が過敏化することで、実際には傷がなくても痛み信号が過剰に脳へ伝わります。
この神経過敏には、以下のような要因が関与します:
- ストレス・不安で痛み神経が興奮しやすくなる
- 自律神経の乱れで唾液量低下(ドライマウス)
- 抗不安薬・降圧薬・ホルモン薬などの副作用
- 更年期によるエストロゲン低下
- 慢性疲労・睡眠不足による神経の感受性上昇
特に更年期の女性では、ホルモンの急激な変動によって舌の知覚神経が過敏になり、舌痛症が生じるケースが多く報告されています。

②ドライマウス(唾液量の低下)
唾液が減ることで粘膜が乾燥し、神経が直接刺激されやすくなるため、ヒリヒリとした痛みが増幅します。
口腔乾燥の原因としては、
- 自律神経の乱れ
- 更年期・ホルモン変動
- 薬の副作用
- 慢性的なストレス
- 咀嚼不足
が代表的です。
検査で異常なしとされやすい理由
舌痛症の多くは構造的な問題ではなく、神経の機能的なトラブルのため、MRIや血液検査では異常が見つかりにくいのが特徴です。
そのため、
「歯医者でも異常なし」
「大学病院の口腔外科でも分からない」
「薬が効かない」
という状態に陥り、精神科に回される方も少なくありません。
しかし、これは決して「気のせい」ではなく、現代医学でも 神経と自律神経の乱れによって起きる疼痛疾患 として位置づけられています。
東洋医学でみる舌痛症の原因タイプ

舌痛症は、現代医学では原因が分かりにくい場合が多い一方、東洋医学では舌を「脾胃(消化吸収)・心(自律神経)・腎(生命力)」と深く結びつけて考えます。
そのため、気血の不足、熱・湿・寒のアンバランス、ストレスによる気の停滞が舌のヒリつき・しびれ・灼熱感・違和感につながると捉えます。
以下は、舌痛症でよく見られる5つのタイプです。
①ストレスで口内に熱がこもるタイプ(肝火上炎)
精神的ストレスやイライラが続くと「肝の気」が滞り、頭部〜口内に過剰な熱がこもって舌が過敏になります。
- 舌のヒリヒリ・灼熱感
- こめかみの張り、目の疲れ
- 寝つきが悪い、イライラ
- 味がしみる・口が乾く
- 仕事・対人ストレスで悪化
舌の“ピリッとする痛み”が夕方に強くなる人に多いタイプです。
②不安・緊張で舌が過敏になっているタイプ(心火旺盛)
心は「精神」と「舌」を司るため、不安・緊張・パニック傾向が続くと舌の感覚が過敏になって痛みが強く出ます。
- 舌に傷がないのにヒリヒリ痛い
- 舌の一点が気になる
- 喉の違和感(梅核気)
- 夜に悪化
- 動悸・胸苦しさが出やすい
舌痛症でもっとも多い“機能性過敏”のタイプ。

③消化力の弱り+湿+胃熱が混在するタイプ(脾気虚・脾胃湿困・胃熱)
舌は脾(胃腸)の状態をそのまま反映します。
胃腸の弱り(脾気虚)、湿気の停滞(湿困)、さらに食べ過ぎ・ストレスで生じた“胃熱”が合わさることで舌の粘膜が荒れ、ヒリつきが続くタイプです。
- 舌が乾燥・ひび割れ・表面が荒れた感じ
- 辛いもの・熱いものがしみる
- 胃もたれ、食欲のムラ
- 舌の縁に歯の跡(歯痕)
- 雨・湿気で悪化
- 食後や夜に重だるさ
湿気・胃熱・弱りの「トリプル」で舌のコーティングが乱れ、痛みや違和感が続きます。
④冷えが強く、頭にだけ熱がのぼるタイプ(腎陽虚+冷えのぼせ)
体の“芯の火”である腎陽が弱ると、全身が冷えるのに頭や口内にだけ熱がのぼり、舌がヒリつくことがあります。
いわゆる 「冷えのぼせ」 の舌痛症タイプです。
- 舌の灼熱感・ピリピリ
- 手足は冷たいのに顔・頭だけ熱い
- 夕方のほてり、寝汗
- 朝はだるい
- 低血圧、慢性疲労
冷え+のぼせ+気血の不足が舌の知覚を乱します。

⑤ 乾燥・鼻炎・口呼吸が関係するタイプ(肺陰虚・肺気上逆)
肺の潤い不足や鼻のトラブルが長く続くと舌が乾燥し、ヒリつき・ピリピリが起こりやすくなります。
- 舌が乾いて痛い
- 鼻づまり、後鼻漏、口呼吸
- 朝起きたときに悪化
- 喉の乾燥、咳
- 季節の変わり目で悪化
特に“乾燥の痛み”が強いタイプです。
舌痛症に対する鍼灸アプローチ

① 自律神経を整え、過敏になった舌の神経を鎮める
舌痛症では、舌の神経(舌神経・鼓索神経)が過敏になり、「傷がないのに痛い」「ピリピリする」という状態が続きます。
鍼灸で首・顎周り・肩の緊張を緩め、交感神経の興奮を落ち着かせることで痛みの過敏スイッチをオフにしていきます。
使用経穴例:風池・天柱・翳風・合谷・など
(顎関節の緊張や歯ぎしりがある方には咬筋や胸鎖乳突筋へのアプローチも有効)
②循環力を整え、舌の血流と粘膜の再生力を高める
舌は細かな毛細血管が密集しているため、血流が悪くなると ヒリつき・乾燥・灼熱感 が強く出ます。
鍼灸では舌への血流改善・粘膜の修復力向上を促すことで舌表面が落ち着き、痛みの回復が早くなります。
使用経穴例:太衝・内関・足三里・曲池・血海など
とくに太衝(肝経)や曲池(大腸経)は舌の熱を抜き、足三里(胃経)は胃腸を整えて粘膜を回復させます。

③体質別(五臓別)への根本治療
舌痛症の特徴として、「原因が人によってまったく違う」 という点があります。
- 肝火上炎:口内に上った熱を取り、神経の興奮を鎮める
- 心火旺盛:睡眠・不安・緊張を整え、舌の過敏反応を落ち着かせる
- 脾気虚・胃熱:脾胃の働きを整え、粘膜の炎症・乾燥・舌のヒリつきを改善する
- 肺陰虚・肺気上逆:鼻の通り・喉の潤いを整え、舌の乾燥痛・ピリピリ感をやわらげる
- 腎陽虚:冷えを改善し、上半身の“のぼせ”を沈めて舌の熱感を調整する
そのため、五臓によって治療ポイントを変えることが舌痛症治療の最大の強みです。