咳を止めるツボ|押した瞬間に効く手足のツボと正しいやり方【鍼灸師解説】

- また咳が止まらなくなるかもしれない
- 薬を飲んでもなかなか改善しない
- 夜になると咳き込んで眠れない
咳が続くと、不安や焦り、そして体力の消耗を感じる方は多いものです。そんなとき、自宅でできるセルフケアの手段があると、それだけで安心材料になります。
この記事では、当院が臨床で実際に使っている咳のツボを、手・足裏・首と胸の3つの部位に分けて8つご紹介します。
乾いた咳と痰の絡む咳など、タイプ別のツボの使い分けもあわせて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
その咳、どのタイプ?
東洋医学では、咳は「肺」の働きが乱れ、本来下へ向かうはずの気が上へ突き上げること(気逆)で起こると考えます。
ただし、なぜ肺が乱れたのかは人によって違い、そこでツボの選び方が変わります。
タイプ | こんな咳なら | 使うツボ |
乾いた咳 (燥・熱) | 痰が出ない/喉がイガイガ乾く/声がかすれる/夜間に悪化 | 尺沢・孔最・天突 |
痰の絡む咳 (痰湿) | 白くベタつく痰/喉に張り付く/胃腸が弱い/体が重だるい | 足三里・裏内庭・天突 |
ゾクゾクする咳 (風寒) | 透明な痰/悪寒がする/鼻水も出る/冷えると悪化 | 合谷・裏内庭・天突 |
長引く咳 (肺腎の虚) | 3週間以上/夜間や明け方に強い/息切れ/疲れやすい | 太渓・膻中・足三里 |
どのタイプでも、まず天突は共通で使えます。
あとは自分の咳の質。痰が出るか、乾いているか、冷えると悪化するか。で選んでください。
【手・腕のツボ】人目を気にせずどこでもケアできる
咳のツボというと喉や胸を思い浮かべますが、実は肺の経絡は腕の内側を通って親指まで流れています。だから手と腕には、咳に効くツボが集中しているのです。
① 孔最(こうさい)|急な咳の特効穴
手のひらを上に向けたとき、腕の内側の親指側。肘の内側のしわから手首に向かって3分の1ほど下がったあたりの骨の際で、押すとズーンと響くところです。
孔最は肺経の「郄穴(げきけつ)」といって、急な症状に働くツボです。名前も「孔(あな)を最もよく開く」の意味で、古くから咳・喘鳴・呼吸の苦しさに用いられてきました。咳の発作が起きたその場で使える一穴です。
刺激方法:お灸を左右1日1個ずつ。摩るのでもOKです。
② 尺沢(しゃくたく)|咳の代表的なツボ
肘の内側のしわの上で、力こぶの腱の外側(親指側)にあるくぼみ。肘を軽く曲げると見つけやすくなります。先ほどの孔最と同じライン上にあり、尺沢が肘側、孔最がそこから手首寄りの位置関係です。
尺沢は肺経の「合穴(ごうけつ)」にあたります。古典には「合は逆気して泄するを治す」とあり、上へ突き上げる気を下ろす働きを持つとされてきました。まさに咳のためにあるようなツボです。
肺にこもった熱を冷ます作用もあるため、痰が出ない乾いた咳、喉のイガイガ、声のかすれ、喘鳴を伴う咳に広く使えます。咳のツボを一つだけ選ぶなら、この穴です。
刺激方法:反対の親指でゆっくり押し込み、深呼吸をしながら10秒キープ。左右2セット。息を吐くタイミングで押すとより効きます。
③ 合谷(ごうこく)|ゾクゾクする風邪の咳に
手の甲、親指と人差し指の骨が合わさる手前のくぼみ。押すとズーンと響くところです。
合谷は大腸経の原穴です。東洋医学では肺と大腸は表裏の関係にあるとされ、大腸経を整えることが肺の働きを助けます。悪寒があり透明な鼻水を伴う風邪の初期の咳、冷えると咳き込む方に向いています。喉の痛みや頭痛を伴うときにも使える万能穴です。
刺激方法:反対の親指で、人差し指の骨の方へ向かって押し込む。10秒×3回。お灸で温めるのも効果的です。
【足のツボ】夜の咳と、痰の絡む咳に
意外に思われるかもしれませんが、咳に対して足のツボは非常に有効です。特に夜間の咳や、胃腸の弱りが背景にある咳には、足からのアプローチが効きます。
④ 裏内庭(うらないてい)|当院が最も多く使う咳の穴

足の裏、人差し指の付け根あたり。取り方にコツがあります。人差し指の腹(指紋の中心)にペンで印をつけ、その指を足裏側に折り曲げたとき、足裏に印がついた場所です。
胃腸にこもった熱や冷えを取り除くツボで、咳の「悪化スイッチ」を切る働きがあります。特に、足先が冷たいのに夜になると咳がひどくなる方に、はっきりとした変化が出やすい穴です。
刺激方法:お灸が最も効果的です(左右1回ずつ)。指圧なら、ややしっかりめの圧で10秒×3回。
あまり知られていないツボですが、臨床での使用頻度は非常に高く、当院では咳の相談を受けたとき必ず確認する一穴です。
⑤ 太渓(たいけい)|長引く咳・夜間や明け方の咳に
内くるぶしの頂点とアキレス腱の間にあるくぼみ。腎経の原穴で、体の根本の力が最も出入りする場所とされます。
東洋医学には「肺は気を主り、腎は気を納める」という考え方があります。息を吸い込んだ気を、下でしっかり受け止めているのが腎だという意味です。この腎の力が落ちると、気は下に納まらず上へ突き上げ、咳や息切れになります。
咳が3週間以上続いている方、夜間や明け方に咳き込む方、話し続けると咳が出る方、疲れやすく息切れしやすい方に向いています。急性の咳より、慢性化した咳に効く一穴です。
刺激方法:指の腹をそっと当て、深く沈み込ませるように10秒。強く押す必要はありません。お灸との相性が特に良い穴です。
⑥ 足三里(あしさんり)|長引く咳と体力の回復に
膝のお皿の下、外側のくぼみから指4本分下、すねの骨の外側。
東洋医学には「脾は生痰の源、肺は貯痰の器」という言葉があります。痰を作っているのは胃腸で、それを溜めているのが肺だという意味です。つまり、痰が絡む咳を根本から減らすには、胃腸を立て直す必要があります。
咳が長引いて体力が落ちている方、食欲が落ちている方にも向いています。
【首・胸のツボ】喉の奥のムズムズに直接
⑦ 天突(てんとつ)|咳の特効穴

左右の鎖骨の間にあるくぼみ、喉仏の下です。咳き込み、喉の異物感、声枯れに古くから使われてきた、咳の代表的なツボです。
注意:ここは繊細な場所です。真下に押し込まず、胸骨の裏側に向かって指の腹でごく軽く触れる程度にしてください。息を吐きながら10秒、軽く触れているだけで十分です。お灸なら1日2回(朝晩)が目安です。
⑧ 膻中(だんちゅう)|息苦しさを伴う咳に

左右の乳頭を結んだ線の中央、胸の骨の上。全身の気が集まる場所とされ、胸につかえた気を開きます。
咳のしすぎで胸や背中が張っている方、息が深く吸えない方は、ここが硬くなっていることがほとんどです。中指で心地よい強さで押しながら、ゆっくり息を吐いてください。
痰が絡む咳を楽にするには

痰の絡む咳は、痰そのものを何とかしようとしても、なかなか抜けません。東洋医学では、痰は体の水分代謝が滞った結果できるものと考えるからです。
そこで登場するのが、「脾は生痰の源、肺は貯痰の器」という古典の言葉です。痰を作っているのは胃腸(脾)であり、肺はそれを溜めているだけという意味になります。
つまり、肺だけを見ていても痰は減りません。作られる場所である胃腸を立て直さなければ、いくら咳を止めても、また溜まってきます。だから痰の絡む咳には、足三里で胃腸の力を底上げすることが中心になります。あわせて裏内庭で胃腸にこもった熱や冷えを取り除くと、より効きます。
咳の相談で来られた方に、当院が食事のことを必ず伺うのはこのためです。痰の量は、口から入るものと胃腸の状態でかなり変わります。
あわせてやりたいこと
- 常温か温かい飲み物にする:冷たいものは胃腸を冷やし、水分代謝を滞らせて痰を増やします
- 乳製品・甘いもの・脂っこいものを控えめに:東洋医学では痰を生みやすい食べ物とされます
- 大根・れんこん・梨を取り入れる:古くから痰を切ると言われる食材です
- 食べすぎない:胃腸に負担がかかると、処理しきれない水分が痰になります
- 湿度を50〜60%に保つ:乾燥すると痰は硬くなり、切れにくくなります
夜に咳が止まらないときの対処法

夜になると咳が酷くて眠れない。そんな方に、当院がお伝えしている方法があります。
喉から胸骨のあたりを、一時的に冷やす
やり方は簡単です。保冷剤をキッチンペーパーで包み、喉から胸骨のあたりに約1分だけ当てます。
風邪をこじらせて咳が止まらないとき、気管支の付近に熱がこもり、この熱が咳の反射を強めていることがあります。一度クールダウンさせることで咳が落ち着き、眠りやすくなる方が多いのです。
あわせて、上半身を少し高くして寝る(枕やクッションを追加する)と、気道が確保されて咳き込みにくくなります。眠れない状態が続くと回復が遅れるので、まずは眠ることを優先してください。
なお、この冷やす方法は熱がこもったタイプの咳に有効です。ゾクゾクする悪寒があり、透明な鼻水を伴う咳の場合は逆効果になるので、その場合は首の後ろを温めてください。
子どもの咳に使うときは

お子さんにツボを使う場合、大人と同じ刺激では強すぎます。
子どもは皮膚が薄く反応が良いため、押すのではなく「さする」で十分です。手のひらで背中の上部(肩甲骨の間)を、上から下へゆっくりさする。これだけでも咳が落ち着くことがあります。天突は触れる程度に、ごく軽く。
お灸を使う場合は、必ず大人が手を添えて熱さを確認しながら行ってください。熱いと感じたらすぐに外します。乳幼児への使用は避け、心配があれば専門家に相談を。
また、子どもの咳は進行が早いことがあります。呼吸が苦しそう、ゼーゼーヒューヒューという音がする、顔色が悪い、水分が取れないといった場合は、セルフケアより先に小児科を受診してください。
セルフ灸のやり方
①用意するもの
市販のお灸(台座灸・せんねん灸など初心者向けがおすすめ)
ライター or チャッカマン
灰皿または耐熱皿
タオル、水(熱を感じすぎた時のため)、保冷剤でもOK
②お灸をする前のポイント
施術前に 軽く膝周りをさする(血流が上がり、熱が通りやすくなる)
食後30分は避ける
できれば 毎日同じ時間帯 に行うと効果が出やすい
同じツボに1壮/日までが基本
③お灸の手順
手順①:ツボを軽く押して確認
→「ズーン」と響くポイントが適切。
手順②:お灸をセット
→台座灸の底部シールを剥がし、ツボに貼る。
手順③:火をつける
→先端に火をつけ、煙が安定したら深呼吸。
手順④:温かさがじんわり広がるのを感じる
→熱すぎたらやめてOK。無理はしない。
手順⑤:燃え尽きたら外し、軽く押さえる
→手のひらで3秒ほど温めて蓋をするイメージ。
咳を和らげる「はちみつ大根」

薬に頼りたくないとき、昔から使われてきた民間の知恵も助けになります。
大根には炎症を鎮め、痰を切る働きがあるとされます。はちみつは喉を潤し、乾燥による刺激を防ぎます。この2つを合わせたのが、はちみつ大根です。
作り方
大根を1〜2cm角に切って容器に入れ、ひたひたになるまではちみつを注ぎます。数時間置くと大根から水分が出て、シロップ状になります。これを小さじ1杯ずつ、そのまま舐めるか白湯に溶かして飲んでください。
すりおろした大根の絞り汁に同量のはちみつを混ぜる方法でも構いません。こちらは即席で作れます。
注意:1歳未満のお子さんには、はちみつを与えないでください。乳児ボツリヌス症の危険があります。
こんな咳は医療機関へ

咳の多くは自然に治まりますが、次のような場合は自己判断せず受診してください。
- 咳が3週間以上続いている(喘息・結核・肺の疾患の可能性)
- 血の混じった痰が出る
- 息苦しさがある、ゼーゼー・ヒューヒューという音がする
- 高熱が続く、体重が減ってきた
- 横になると咳がひどくなり、足のむくみもある(心臓の疾患の可能性)
特に、3週間以上続く咳は「遷延性の咳」と呼ばれ、原因の特定が必要です。まずは呼吸器内科などで検査を受け、そのうえで残った症状に対して東洋医学的なケアを組み合わせるのが安全です。
咳を繰り返してしまう方へ

風邪をひくたびに咳だけが長引く。季節の変わり目に必ず咳き込む。同じ咳を毎年繰り返している。こうした方は、咳そのものより、その背景にある体質を見たほうが早く抜けられます。
東洋医学では、咳を繰り返す背景に肺の防御力の低下と、それを支える胃腸の弱りがあると考えます。「脾は生痰の源」という言葉の通り、胃腸が弱ければ痰は作られ続け、肺はそれを溜め続けることになります。
また、ストレスによる気の滞りが咳を誘発することもあります。人前で緊張すると咳き込む、寝る前に咳が出る、といった場合は、肺だけでなく気の巡りも整える必要があります。
当院では、問診・脈診・舌診・触診の四診から、肺・脾・腎のどこに弱りがあるのかを見立て、体質に合わせた施術を行っています。検査で異常が見つからないのに咳が続く、という方はご相談ください。
3週間以上続く「長引く咳」の考え方

風邪は治ったはずなのに咳だけが残る。この「咳だけが長引く」状態は非常に多く、そして厄介です。
咳が続くと、気道の粘膜が敏感になり、冷たい空気・乾燥・においといったわずかな刺激にも反応するようになります。すると咳がさらに気道を刺激し、また敏感になるという循環に入ります。咳が咳を呼ぶ状態です。
東洋医学では、この段階を「肺の潤いが失われた状態」と捉えます。長く咳き込むことで肺が乾き、乾いた肺はさらに咳を起こしやすくなる。だから対処も、咳を止めることより肺を潤すことが中心になります。
この段階で使うツボ
尺沢で肺の熱を冷まし、太渓で体の潤いの源を補う。この2つの組み合わせが向いています。特に、夜間や明け方に咳が強くなる方、話し続けると咳き込む方には、太渓を加えるかどうかで結果が変わります。
生活面でできること
- 加湿を徹底する:湿度50〜60%。就寝時はマスクをするだけでも違います
- 喉を乾かさない:こまめに少量ずつ水分を。一気飲みより回数を
- 声を使いすぎない:話し続けることが刺激になります
- 冷たい空気を直接吸わない:外出時はマスクやマフラーで
季節の変わり目に咳が出る方へ

毎年決まった時期に咳き込む方がいます。特に多いのが、夏から秋にかけてと、冬から春にかけての時期です。
東洋医学では、秋は「燥(そう)」の季節とされ、乾燥が肺を傷めると考えます。夏の湿気に慣れた体が急な乾燥に対応できず、空咳や喉のイガイガとして現れる。この時期には、肺を潤す尺沢や、梨・れんこん・白きくらげといった白い食材が向いています。
一方、春先の咳は寒暖差と風の影響を受けます。体表の防御が乱れやすい時期なので、合谷で守りを固め、首の後ろを冷やさないことが大切です。
毎年同じ時期に不調が出るのは、体質と季節の相性が決まっているためです。逆に言えば、時期が予測できるということでもあります。始まる2〜3週間前からケアを始めると、症状がぐっと軽くなります。
まとめ

咳のツボは、手・足裏・首と胸の3か所に分かれています。急な咳には手の孔最、乾いた咳には尺沢、痰の絡む咳には足三里、長引く咳には太渓、夜間の咳には足裏の裏内庭。喉のムズムズには天突。
全部やる必要はありません。自分の咳が乾いているか、痰が絡むか、冷えると悪化するか。それを手がかりに、2〜3穴を選んでください。
咳は「そのうち治るだろう」と放置すると、気道が過敏になり、わずかな刺激でも咳き込む状態が定着してしまいます。そうなる前に、早めのケアを。3週間以上続く場合は、まず医療機関で確認してください。
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