【症例報告】アトピー性皮膚炎と不眠症|30代後半・男性

主訴

アトピー性皮膚炎(肌の痒み、荒れ)
不眠症(中途覚醒、昼間の眠気)

初期状態

①アトピー性皮膚炎
・肌の痒み(特に顔および首)
・見た目にも一部改善希望(首・顔・背中・腕・足などほぼ全身)
・日中の痒みにより業務に集中できないことがある
・ステロイド外用薬を毎日使用
②不眠症
・今年1月頃より、業務の多忙に伴い症状出現
・中途覚醒、起床時の不快感および日中の眠気が顕著(ほぼ毎日)
・中途覚醒は2時間に1回程度発生
・入眠は問題なし
・稀に5時間連続睡眠可能
・思春期より軽度の不眠傾向あり
・睡眠不足による気力・体力低下
・病院受診歴あり、薬剤服用するも効果不十分で中止
③その他所見
 のぼせやすい体質
 鼻炎もち
 腹診:肺、脾(違和感)
 脈診:細・やや数

東洋医学的な見立て

本症例では、「熱が上にこもりやすい体質(のぼせ)」を主因と判断。

  1. 肺の粛降作用低下により、気の逆上(気逆)が認められる
  2. 肝の疏泄機能の乱れにより肝火上炎が生じ、不眠を助長
  3. 上半身に熱がこもることで、顔〜首のアトピー性痒みが増強(上熱下寒)
  4. 熱の過剰により睡眠が浅く、回復が十分でない状態
  5. 痒みとして現れる熱の局所的な滞留が、睡眠障害をより顕著化させている可能性

以上より、熱を下へ降ろすことと、全身の巡りを改善する体づくりを治療の主眼とした。

治療内容と使用経穴例

熱を下に降ろすということと同時に、巡らせられるような体を作っていくことを目指した。

  • 肺の粛降作用回復による気の流れの調整
  • 肝の疏泄作用促進による熱の循環改善
  • 上焦の熱を散らす施術(百会など)
  • 首肩部緊張の緩和による気血循環改善
  • 下半身および裏内庭の使用により頭寒足熱の状態へ誘導

使用経穴:太衝、孔最、裏内庭、太淵、太白、通里、飛揚、風池、百会など

治療間隔

基本的に週1回、都合により2週に1回

途中より2週に1回へ変更

治療経過

️1〜2回目
・治療当日は睡眠が改善するが、持続性は限定的
・7時間連続睡眠が1日あり
・肌の痒み・外観に明確な変化なし(出張等の影響も考慮)
・血流改善を実感、痒み助長の要因となる場合あり
 
️3回目
・上半身の痒み軽減
・のぼせ感の改善傾向
・下半身の痒み残存(特に入浴後)
・睡眠改善は治療直後のみ
 
️4回目
・肌状態改善、痒み軽減が段階的に確認
・睡眠日数が2〜3日に増加
・気力の向上
・食事改善、栄養士相談開始
 
️5〜7回目
・肌状態の急速な改善
・外観の変化顕著
・痒みは首・顔のみ、のぼせに伴い発生
・週4〜5日、十分な睡眠確保
・治療間隔を週1回から2週に1回へ変更
 
️8回目
・数日前に風邪発症
・消化器症状および全身倦怠感あり
・不眠・アトピーには影響なし
 
️9・10回目
・主観的に不調なし
・外出・活動意欲の向上
・体調良好
 
️11回目
・季節変化および夏季疲労により軽度体調変動
・乾燥による肌痒み軽度出現
・1日のみ睡眠不良あり
 
️12回目
・顕著な不調なし
・海外旅行も可能な体力・気力回復

季節変動や疲労による一時的な不調はあるものの、大きな体調悪化は認められず、安定した健康状態を維持可能

まとめ

本症例では、不眠症およびアトピー性皮膚炎という二症状が、「のぼせ(熱の上昇)」を中心とした全身バランスの乱れにより同時に悪化していたと推察される。

治療においては、熱を下に降ろし全身巡りを整える体づくりを丁寧に行った結果、睡眠の質・皮膚状態・気力体力が同時に改善。

加えて、生活改善への意識向上(食事改善・外出意欲)が自然に生じ、症状改善を後押しする要因となった。

一時的な風邪や季節変化の影響はあったものの、波があっても回復可能な身体となり、現在では月1回のメンテナンスで十分健康を維持できる状態。

不眠症やアトピー性皮膚炎は別個の症状に見えるが、東洋医学的には「体の熱」「巡り」「全身バランスの乱れ」が共通の根本要因となることがある。

本症例は、全身調整により複数の慢性症状が同時に改善した、東洋医学治療の良好な症例と考えられる。

※施術効果には個人差があります。
 
 
 担当鍼灸師:石井優雅